キズナの言葉を聞くと、癒芽は俯き、涙声になって呟いた。
「だって癒芽、病院から出られなくてお祝いできなかった。だから、何かあげたいんだもん」
キズナはしばらく癒芽を見つめていたが、やがて小さくため息をつき、癒芽の肩に優しく手を置きながら言った。
「わかったわ。私がなんとか方法を考える。それで、悠斗くんはどこにいるの?」
癒芽の目にはまだ涙が溜まっていたが、嬉しそうにキズナを見上げて声を張り上げた。
「悠斗は家だよ! こっち!!」
癒芽はそう言うと、キズナの手を引っ張って野原を駆け出し、街の方へ走っていった。
「ここだよ!」
大通りを通過し、住宅街を抜けたところで、癒芽が急停止した。目の前には、住宅街から離れて建っている一軒家があった。
とても大きな洋風の家だった。白い壁の二階建て。玄関や庭には、手入れをされた色とりどりの花が咲き誇っている。
門を通り抜けて家の中に入ると、癒芽がリビングへと案内した。
リビングも相当な広さだ。
淡いピンクの絨毯の上に木製の机、隣には家族四人が軽々座れそうな白いソファー。そのソファーに向き合うように大画面の薄型テレビが置いてある。
ガラス張りの棚の中には、たくさんの家族写真が並べられていた。癒芽も笑顔で写っている。その下の段には……おもちゃやぬいぐるみ、絵本の数々。
「これ、全部癒芽の病室にあったものなんだよ」
キズナの視線の先に気付いた癒芽が説明した。
「で、これが癒芽の宝物!」
癒芽が綺麗に並んだ絵本の中で、一番薄汚れている本を指差した。何度も読み尽くしたのだろう。
その本の表紙には、『花言葉事典』と書かれている。
「『癒芽は花が好きだから』ってパパが買ってきてくれたの。綺麗なお花の絵がいっぱい載っててね、ママがいつも読んでくれた」
癒芽は眩しいほどの笑顔で自慢げに話し、花言葉事典を見つめている。そんな中、ふいに癒芽が尋ねた。
「……死神さん、知ってる? お花には『花言葉』っていって、いっぱい意味があるんだよ」
癒芽がキズナに説明していると、一歳くらいの男の子を抱いた女性がリビングに入って来た。