「相川癒芽<アイカワ ユメ>! 六歳です!」
そう言って明るく笑う少女とは対照的に、キズナは怪訝な顔で目を細めた。
――ツキも私も視えていると言うことは……
「あなた、霊なのね?」
「うん!」
癒芽は元気に答えたが、キズナは相変わらず険しい表情で癒芽を見つめている。
ツキが、近づいてくる霊に気付けなったのも無理はない。ツキは、先程までぐっすり眠っていたのだから。しかし、こんなに明るい霊は見たことない。
キズナが悶々と考えを巡らす一方、癒芽はツキに意識を戻し、不思議そうに首を傾げた。
「あれ? 猫さん、尻尾が3つある。これ、絡まらない?」
「猫じゃないもん! 死神の使いだもん!」
ツキが、癒芽の手から逃れようと必死にもがきながら怒鳴った。そんなやりとりを見ていたキズナは、ふっと笑いながら口を開く。
「もとは猫だけどね。死神の使いは、長生きした黒猫が神に力を与えられたものだから」
キズナは癒芽に笑顔を向けながら話を続ける。
「死神の使いはね、死神が神から授けてもらうの。ツキの尻尾は、死神の仕事に大事な役割を果たしてるのよ」
「そうだよ! この尻尾が霊を感知して、この尻尾が霊の情報を感知して、この尻尾が天への道を示してくれるんだよ!」
ツキが3つの尻尾を順番に振りながら自慢げに言った。しかし、ある単語を聞いた癒芽の顔色が一瞬で変化する。
「死神? お姉ちゃん、死神さんなの?」
癒芽の手が驚きで緩まった瞬間、ツキが逃れてキズナの肩の上に避難した。
「癒芽のこと、そのおっきい鎌で捕まえに来たの?」
癒芽は怯えたように後ずさりしながら、キズナの大鎌を見た。
「違うわ。この鎌は悪霊を斬るためのもの。私達は生きてる人間や普通の霊には何もしない。死神の仕事は迷える霊を天に導くこと」
キズナのその言葉を聞くと、癒芽はようやく安堵の表情を見せた。
「あなたを天に連れて行ってあげる。一緒に行きましょう」
キズナは優しく癒芽に手を差し延べたが、癒芽は首を横に振っただけだった。
「まだ行けないの。癒芽には、やらなきゃいけないことがあるから」