長い冬を越えた蕾たちが綺麗な花をつけ始めた野原で、ようやく暖かくなり始めた日差しを浴びながら、十七歳程の少女が起き上がった。


どうやら優しい日差しの中、しばしの休息をとっていたらしい。この季節には、誰もがしたくなる行動だろう。


……しかし、その少女はどう見ても『普通』ではなかった。


少女は全身真っ黒だった。腰までもある長い黒髪に黒い瞳、そして芽吹きの季節には似合わない黒い布を巻き付けている。


そして、少女は自分の背丈を超えるほど巨大な鎌を持っていた。その鋭利な刃が不気味に光っている。


その少女は伸びをし、隣に丸まっているある生物に向かって話しかけた。


「ほら、ツキ! そろそろ行こう。いつまでも寝ているわけにはいかないんだから」


ツキと呼ばれたものも『普通』ではなかった。


一見はただの黒猫。しかし、普通の猫にはないものを持っている。黒い羽根と3つの尻尾だ。


その謎の黒猫は眠そうに目を少しだけ開け、不機嫌な声を漏らした。


「キズナはいいじゃん。死神だから寝なくても平気なんだもん。でも、ツキは寝ないと疲れるのー」


「……もう。早く霊を探しに行かないと。成仏できずに現世に留まっている霊は、たくさんいるんだからね!?」


キズナはそう言うと、さっさと立ち上がって街を見下ろした。その野原は、賑わう街から少し離れた丘にあるので、街の様子が見下ろせる。



――この中に、どれだけ多くの霊が留まっているんだろう。



そう思った直後、後ろから「ぎゃっ!!」という声が聞こえ、キズナは急いで振り返った。


そこには、小さな女の子の姿があった。おそらく、五歳程度。


肘まで届きそうな長い髪をリボンで高い位置に縛り、二つぐくりにしている。少し色素が薄く、茶色がかった髪が太陽の光で輝いて見えた。


そして……その少女の両手には、ツキがしっかりと挟まれていたのだ。


「猫さん、見っけ!!」


少女がツキを覗き込みながら、嬉しそうに声を張り上げた。


キズナは、少女の突然の登場に驚きながら、不思議そうに尋ねる。


「あなたは……?」