「まさか、君も……?」


弘樹が尋ねた時、ツキが横から得意げな声を発した。


「あんね、死神は特殊な死に方をした人間がなるものなんだよー」


「特殊な死に方?」


弘樹が不思議そうな目をして尋ねたが、キズナは首を横に振り、静かに口を開いた。


「私も詳しくは知らない。死神には死の瞬間の記憶しか残されていないから」


キズナは感情のない目を弘樹に向け、さらに言葉を紡ぐ。


「私が知ってるのは、『私の最期』だけ。他の死神がどうやって死んだかなんて分からないわ」


その直後、キズナの目に悲しげな光が宿った。


「私はね、失った全ての記憶を取り戻すまで『死神』から解放されないの。その時まで……ただ霊を天に還し、悪霊を始末するだけの存在であり続ける」


しばらくの沈黙の後、再びキズナが口を開いた。


「……彼女の死は食い止めた。これで良いでしょう? 彼女はもう大丈夫なはずよ。天に還りましょう」



――綾華は生きる希望を見つけた。きっともう大丈夫だ。……俺がいなくても。



弘樹は小さく微笑みながら頷いた。


「じゃあツキ、彼を……」


キズナがそう言った時、バタバタという廊下を走る音がキズナの話を遮った。


弘樹とキズナが足音のする方へ振り向くと、看護士と女医が血相を変えて走っていくのが見えた。


「309号室の松永さんが急に産気づいて……至急、分娩室へ運びました!! 少し危険な状態で……」


看護士が走りながら、女医に状況の説明をしている。


「綾華……?」


弘樹の顔色が変わった。


「弘樹、落ちつい……」


キズナが即座に弘樹の方を振り返るが、その時には既に弘樹の姿はなかった。




『……少し危険な状態で……』


看護士の言葉が、廊下を走る弘樹の頭の中で何度も響く。




看護士達の後を追って弘樹が分娩室に辿り着いた時、ちょうど綾華が運ばれてきた所だった。


「綾華!」


弘樹は綾華が運ばれている担架に飛びつき、そのまま一緒に分娩室に入っていった。