その言葉で、初めて遥香の顔から血の気がひいた。遥香は目を見開き、後ずさりしながら呟く。
「まさか、さっきの……」
「見てたよ!お父さんが死んで一年しか経ってないのに、どうしてそんなに簡単にお父さんを忘れられるの!?」
――あんなお母さん、見たくなかった。ほんの一年前までお父さんだけに向けていた笑顔を、他の男に向けている姿なんて。
父と母との思い出が、家族三人で幸せに暮らした記憶が汚されていく。そんな気がした。
「蒼依、話を聞いて!ちゃんと説明するから!」
遥香が泣きそうな顔で蒼依に近づき、手を握ろうとした。が、
「汚い手で触らないでよ!!」
蒼依はその手を振り払った。その手は……紛れも無く、あの男に握られていた手だったのだ。
その瞬間、遥香の顔が凍りついた。
「……誰かに頼るのは、そんなにいけないことなの?」
遥香が拳を堅く握り、憎しみの光を宿らせた目で蒼依を見つめた。
「あんたにはわかんない。お父さんが死んでから、私がどんな思いであんたを育ててきたか。一人で……どんなに悩んでも誰にも相談できなかった」
遥香は目に涙を溜めながら、震える声で話を続ける。
「そんな私を、彼が支えてくれたの!私の話を聞いて力になってくれたのよ!それが、そんなにいけないことなの!?」
蒼依は腸が煮えぐり返るのを感じた。
――なにそれ。
他の男に慰められたら、あっさり乗り換えるの?そんなに簡単にお父さんを切り捨てるの?
お父さんへの気持ちなんて、その程度のものだったんだ。
もう"母親"だなんて思えない。お母さんなんて、いなくなっちゃえばいいんだ。
蒼依がそう思った瞬間、遥香が冷たく言い放った。
「もうたくさんよ。あんたなんて生まなければよかった」
その言葉の直後、突如蒼依の体がまばゆい光に包まれた。少しずつ、体が消えていく。
蒼依の視界が揺らぎ、周りの景色がどんどん歪んでいった。
「お母さん!」
消えていく娘を茫然と見ている遥香に向かって手をのばした瞬間、蒼依の目の前は真っ暗になった。
【Children Side*END】