「さぁて! 昨日一日休憩した分、気合い入れていこか!」
隼人達が歩き出した方角とは反対方向にある商店街へと足を進める中、幸弘が狙撃銃を振り回しながら元気よく言った。まるで修学旅行の自由行動時間のようなはしゃぎ様だ。
そんな幸弘の横に並んで歩いていた蒼依が、少し不安げに話し出す。
「私、一緒にいていいのかな。隼人……絶対に私のこと認めてくれてないよね」
悲しそうに俯く蒼依をしばらく黙って見ていた幸弘が、やがて視線を逸らしながら静かに言葉を発する。
「隼人はあんな風に言っとったけど、俺らも別に松下恭を殺したいわけやないんよ。俺らの目的は破壊と帰還。その邪魔さえしてこんかったら、誰も殺したりせぇへん」
その言葉に、蒼依が勢いよく顔を上げた。幸弘を見つめる蒼依の目に、僅かだか希望の光が生まれる。
それを感じ取った幸弘が、再び蒼依に視線を戻しながら微笑んだ。しかし、その後すぐに笑みをひっこめ、真顔で話を続けた。
「どんな理由があろうと、殺人は絶対に許されへん。それは常識や。けどな……Separate Worldでは今までの常識は通用しぃひん事を忘れんなや」
「どういうこと?」
「存続派が俺らを殺しても、誰にも奴らを裁けへんってこと。大人が決めた法律は存在せんのやから。ここには、俺らを縛るものはないけど……守ってくれるものもないねん」
そう言う幸弘の狙撃銃を持つ手に、自然と力が入った。
心を惑わす犯罪への誘惑、それを防ぐ法律の壁。しかし、ここには裁きなど存在しない。
今まで、いかに自分達が大人に守られて生きていたのか……改めて感じさせられた気がした。
「殺さんでいいんやったら殺したくない。けど、自分の身は自分で守らなあかんねん。そのためやったら、手段は選べへん……それだけは覚えとき」
幸弘は少し悲しそうに笑いながら話を括ると、再び前を見て歩き出した。それに続き、蒼依も足を進める。それぞれ、複雑な思いを抱えながら。