蒼依がほっと胸を撫で下ろす一方で、幸弘が真剣な顔付きで話を戻した。


「それで、蒼依はどうするんや? 俺達と行くか、存続派に入るか」


そう尋ねる幸弘の目が鋭く光る。それに気付いた蒼依が慌てて自分の意思を示した。


「私はこのまま破壊派でいく。みんなと一緒に元の世界に帰りたいもん」


力強い蒼依の返答に、幸弘は「そうか」と笑みを広げた。しかし、横から隼人の声が蒼依と幸弘の会話に割って入った。


「お前は抜けろ。邪魔になるだけだ」


蒼依が驚いて顔を上げると、隼人が壁にもたれたまま腕を組み、冷ややかな目で蒼依を見つめていた。


「邪魔……?」


隼人は、そう聞き返す蒼依から目を逸らし、小さく息を吐いて話し始めた。


「今、もし目の前に松下が現れたら……お前は松下を殺せるのか?」


「なに言って……」


蒼依が信じられないという顔で反論しようとしたが、隼人が強い口調でそれを遮る。


「あいつは本気で俺達の邪魔をしてくる。容赦なく殺しにくるだろうな。光璃の死がその証拠だ。殺らなきゃ殺られるんだよ」


――大人と向き合う覚悟はできた。それだけじゃダメなの?恭を殺せなきゃ、破壊派ではいられないの?

殺すことなんて出来ない……出来るはずがないじゃない。


蒼依のそんな思いを読み取ったかのように、隼人が言葉を紡ぎ続けた。


「お前にその覚悟が無いなら、連れていくわけにいかない。生半可な気持ちの奴なんかいらねぇよ。一人の迷いのせいで、全滅するかもしれないんだ」


――生半可。確かに隼人達から見たら、私はどっちつかずの中途半端な人間かもしれない。でも……


「迷うこともいけないの……?」


蒼依が声を震わせ、細々しく尋ねた。しかし、依然として黙ったまま目を合わそうとしない隼人を、蒼依が涙を光らせた目で睨み付けた。


「迷うのは当たり前でしょ!? 恭は幼なじみなんだから! それに……私は隼人みたいに強い人間じゃないし、固い信念を持ってるわけじゃないんだもん!」


バンっと机を叩きながら怒鳴った後、蒼依は泣きながらリビングを出て自室に駆け込んでしまった。