「一緒に来てほしい」……そう繰り返し呟く恭の声は、蒼依の中に切なさを生み出してゆく。
蒼依がどう声を掛けるべきか決めかねていた、その時……突然蒼依の背後から冷たい声が響いた。
「蒼依から離れろ」
その声に振り向くと、数メートル先に隼人の姿が見えた。恭にしっかりと銃口を向けている。
「は……隼人?」
驚愕して恭から離れる蒼依を横目に、隼人は恭に狙いを定めたまま、ゆっくりと近付いてくる。
隼人に銃を向けられた恭は、馬鹿にするようにフンっと笑い、自身の腕で蒼依の体を引き寄せた。
「撃てるもんなら撃ってみろよ。ただし……少しでもブレたら、蒼依が死ぬことになるぞ」
隼人は恭の言葉に目を細めるが、銃を握る手は下ろさなかった。硬直したまま睨み合う二人。
この状況から脱するために、蒼依は恭の腕から逃れようともがいた。……が、大きい恭の腕は蒼依の力ではびくともしない。
「恭……離して!」
蒼依がそう言いながら恭を見上げようとした時……蒼依の体を押さえている腕と反対側の手が、恭のポケットに伸びるのが見えた。
「蒼依、俺は諦めない。必ず迎えに行くから」
恭は蒼依の耳元で小さく呟いた後、ポケットから手榴弾を取り出して素早くピンを外し、隼人目掛けて投げ込んだ。
隼人は咄嗟に身を翻して建物の影に隠れたため、爆発には巻き込まれずに済んだが……次の瞬間、恭の姿は既にそこにはなかった。
「……逃げたか」
隼人が舌打ちをする一方で、ガサガサと草むらが揺れる音が聞こえ、合間から明るい金髪が見えた。幸弘だ。
「蒼依、大丈夫か?」
幸弘はそう言いながら、座り込んでいる蒼依に駆け寄った。狙撃銃を担いでいるところを見ると、少し離れた場所から狙撃の機会を伺っていたらしい。
「う、うん。大丈夫」
蒼依が小さく頷くと同時に、隼人の不機嫌な大声が響いた。
「おい、さっさとここを離れるぞ! あいつが仲間を引き連れて戻ってくる可能性もある」
「おぅ! 蒼依、立てるか? 行くで!」
幸弘が蒼依の腕を掴んで助け起こし、先を走る隼人の後ろに続いてマンションへと向かっていった。