蒼依は前回と同じ方法で部屋を抜け出し、急いで神社に向かった。
約束の場所に辿り着くと、石段の手摺りにもたれ掛かって立つ恭の姿が見えた。
「蒼依」
蒼依の存在に気付き、恭が顔を綻ばせながら歩み寄る。そして、息を切らす蒼依が落ち着くのを待ってから問い掛けた。
「結論は出たか?」
「私……」
優しい笑みを向けながら言葉を待つ恭に、蒼依は一息着いた後きっぱりと言い放った。
「やっぱり、恭と一緒には行けない」
その言葉は、一瞬で恭の笑顔を崩した。恭は納得できない顔で蒼依を見下ろし、少し悲しげに尋ねる。
「なんでだよ。蒼依だって、元の世界に……大人に嫌気がさしたからSeparate Worldに来たんだろ?」
「向き合うことから逃げたくないの。私は仲間からその勇気をもらった。だから、恭も一緒に……」
蒼依はそれ以上言葉を発することが出来なくなった。目の前にある、異常に近い恭の顔。蒼依は自分の口が恭の唇によって塞がれていることに気付いた。
……初めてのキス。それも、大切な幼なじみとの。
目を見開いて茫然としている蒼依から、恭はゆっくりと顔を離した。その直後、蒼依はようやく我を取り戻し、口に手を当てながら数歩後退りする。
「な……に? 今の……」
思わず問い掛けたが、蒼依もバカではない。恭のこの行動が示す意味ぐらい分かる。
だけど、信じられなかった。恭は幼い頃から一緒に過ごして来た友人であり、兄のような存在だったから。
蒼依の動揺ぶりに、恭が力無い笑みを浮かべながら口を開いた。
「蒼依は鈍感だよな。小さい頃からずっと見てたのに、全然気付かねぇんだもん」
恭はそこまで言うと、憂いを帯びた眼差しで蒼依を見つめ、静かに蒼依を抱きしめた。
「なぁ、蒼依。俺のために……一緒に来てくれないか?」
「恭……?」
「俺は、Separate Worldを否定する奴らを残らず始末する。けど、お前だけは殺したくないんだ。だから……頼む」
強く抱きしめれているせいで恭の顔は見えないが、泣いているように感じられた。いつもの恭からは想像出来ないほど、弱々しい声だったから。