隼人も幸弘も大地も……どうして、こんなにも強い目をしているんだろう。
振り返らずに、前だけを見て歩み続ける芯の強さ。恭の一言で気持ちが揺らぐ自分とは明らかに違う、固い意思。
「みんな、すごいな」
思わず呟く蒼依に向かって、大地が小さく首を横に振った。
「すごくなんかない。元の世界に帰るのが怖いのは、みんな一緒なんだよ。でも、僕たちが生まれてきたのはこの世界じゃない。僕たちの居場所は、ここじゃないんだ」
大地は真剣な眼差しでそう言い終えると、大きく伸びをしながら声を上げた。
「……さぁ、僕はそろそろ寝ようっと。明日も頑張んなきゃだしね! おやすみ、蒼依」
「あ、うん。おやすみ」
慌てて言う蒼依に微笑んだ後、大地はソファーから腰を上げてリビングの出口へと向かった。
しかし、扉に手をかけると同時に立ち止まり、ゆっくりと蒼依の方を振り向いた。
「蒼依。迷う気持ちはわかるけど、これだけは忘れないで。"親"という大人がいてくれたから、僕たちが生まれてこれたんだってこと」
大地は意味深な目をしてそう言い残すと、静かにリビングを出て自分の部屋へと戻っていった。
一人残された蒼依の脳裏に、二つの言葉が焼き付いて離れない。
『大人に囲まれて生きるから、子供は"大人"に成長できるんよ』
『"親"という大人がいてくれたから、僕たちが生まれてこれたんだってこと』
――幸弘と大地。二人が言いたかった事が、なんとなくだけど分かった気がする。
大人が"子供"を産み作り、子供が成長して"大人"を築き上げていく。二つは引き離せない存在なんだ……きっと。
蒼依はしっかりと顔を上げ、静かに立ち上がった。決意を込めた目で前を見据えながら。