「そんな焦んな。生きてれば、自ずと道は見えてくる。今は充電期間や……蒼依が将来輝くための、な?」
幸弘はクシャッと蒼依の頭を撫でた後、窓の外に広がる景色に目を向け、静かに言葉を繋いだ。
「その大事な時期を、こんな不自然な世界で過ごすべきやない。大人に囲まれて生きるから、子供は"大人"に成長できるんよ。……存続派の奴らは、単に大人から逃げとるだけや」
その言葉の後、しばらく沈黙が流れた。その重苦しい空気を破って、再び幸弘が声が室内に響く。
「なぁ、蒼依。お前さぁ……」
真面目な顔で探るように蒼依の目を見つめてくる幸弘を見て、蒼依は思わず息を飲んだ。
まさか、自分の迷いを感じ取られてしまったのだろうか。そんな考えがよぎり、蒼依は緊張しながら次の言葉を待った。
「今日の晩メシ、焼きそばかパスタやったらどっちがいい?」
「……はい?」
今までの深刻な話から一転し、その場の緊張感が一気に引いていくのを感じた。しかし、もはや幸弘の頭には晩御飯のメニュー以外にないらしい。
「俺の得意料理はその二つやの。どっちがいいかなぁ……。けど、隼人がミートスパゲティーみたいな可愛いもん食ってるとこ想像すると微妙やな」
幸弘はカメラを元の位置に戻し、ぶつぶつ言いながら部屋を出て台所へ向かって行った。
「幸弘って……謎」
ぽかんと呟く蒼依を残して。
隼人と大地が帰ってきたのは、夕方を過ぎた頃だった。
辺りは既に暗くなり始め、電灯の灯らない外の景色に不気味さが漂っている。そんな中から帰宅した隼人と大地に、幸弘が笑顔で歩み寄った。
「おかえり! 何かあったか?」
「いや。随分遠くまで行ったけど、誰も見つからなかった」
隼人が渋い顔で報告した後、台所で幸弘の手伝いをしている蒼依に目をやった。昼間に幸弘が言っていたように、蒼依の様子が気になっているのだろう。
しかし、蒼依が顔を上げると同時にふいっと目を逸らしてしまった。
「……今日も見つからんかったか。まぁ、気ぃ落とすな。俺がスペシャルディナー作ったから!」
かなり得意げな幸弘が指す先には、四人分の焼きそばが並べられていた。