「あぁ、これは俺の相棒!」


幸弘がカメラを持ち上げ、顔を緩ませた。そして、目を輝かせながら弾んだ声でこう続ける。


「ていうか、夢そのものかな」


「夢?」


「俺、カメラマンになりたいねん。世界中を飛び回って色んな物を写したいんや」


子供がはしゃぐような顔をしていた幸弘。しかし……そこまで話すと、突如顔に陰りが浮きだった。


幸弘はカメラを抱えたままベッドに腰掛け、少し声のトーンを下げながら再び話し出す。


「けど、それを進路面談で話したら、『いつまで子供みたいな事言ってるんだ』『もっと現実見ろ』って……親や教師に鼻で笑われてしもたわ」


幸弘は自嘲するように笑った後、小さくため息を吐きながら話を続ける。


「まぁ、周りの奴らは大学進学やら就職やら先を見越して考えとったから無理ないわな。一応、俺の高校は進学校やったし」


「大人に反対されていても……元の世界に帰りたいって思えるの?」


「蒼依は帰りたくないんか?」


蒼依の問いに、幸弘が怪訝な顔で問い返す。


『迷いを悟られてはいけない』。その思いから、蒼依は慌てて否定した。


「や、そういうわけじゃなくて……ほら! この世界にいれば、自由に写真撮れるじゃない? わざわざ反対されてる中に帰らなくても……」


「確かに大人がおらん世界やったら、好きに生きられるやろなぁ。俺がこの世界に来たんも、それが理由やし。……でもな、俺が撮りたいのはこんなシケた世界と違うんやわ」


幸弘は少し悲しげに笑い、再びカメラを持ち上げた。そのカメラを見つめる幸弘の目には、強い意思が宿って見える。


「俺は、自分のやりたいことをやり通す。ちゃんと大人を納得させてな。周りに認められへんかったら、夢なんて叶えたことにならんから」


「そう……幸弘は強いね」


力無い声でそう呟く蒼依を見て、幸弘が小さく首を振る。


「俺が特別強いわけやない。意思さえ強く持てば、人はいくらでも強くなれるんよ。蒼依もな」


幸弘はカメラから目を離し、珍しく真剣な顔付きで話した。しかし、蒼依は俯いたまま消えるような声を発する。


「私は強くなれない。夢も目標も、何もないもん」