「今日は、少し距離を広げて探してくる」


隼人は拳銃を鞄とポケットに一丁ずつ納めながら幸弘に言った後、蒼依に目を向けて素っ気なく言い放つ。


「休憩なんて認めるのは今日だけだからな。その陰気なツラ、さっさと引っ込めろ」


あまりの言葉に蒼依が顔を歪め、言い返そうと口を開いた。しかし、蒼依の言葉は幸弘の明るい声に呆気なく掻き消されてしまった。


「んじゃ、いってらっしゃーい! おいしい御飯作って待ってるわ!」


幸弘がひらひらと手を振り、二人を見送った。そして、隼人達が出ていったのを確認すると、面白がるようにニヤニヤしながら蒼依に話す。


「隼人も素直やないなぁ。あれでも蒼依のこと心配しとるんやで。この一週間、やけに蒼依の様子を伺っとったしな」


「そう……だったんだ」


自分勝手な迷いのせいで、皆に心配をかけてしまっている。そう思うと、申し訳ない気持ちで一杯になった。


「ごめんね」


肩を落として謝る蒼依に、幸弘は大きく伸びをしながら陽気な笑顔を向けた。


「んー? 別に気にせんでいいよ。それより、はよ便秘治しや! 明日からまた行動再開するからな」


「便秘じゃないってば!」


真剣に否定する蒼依を見て、幸弘は「あははー」と笑いながら自室に戻っていった。


蒼依は、たった今閉まった幸弘の部屋の扉に向かって小さくため息を着いた後、昼食の後片付けをし、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


時計を見上げると……恭との約束の時間まで、あと十二時間程しかない。


――どうしよう……。


選択は二つ。


このまま隼人達と元の世界への帰還を目指すか、恭達と共にSeparate Worldで生きていくか。


どちらを選んでも、どちらかと争わなければならないだろう。


だが……蒼依が悩む理由は、それだけではなかった。


ここにいれば、自分を傷つけるものは何もない。恭の言う通り、"自由"を与えてくれるだろう。その反面、元の世界に帰れば……辛いことがたくさん待っている。


母親、勉強、将来。その重みに耐えられる自信は……今の蒼依にはなかった。