"神隠し"。その噂は遥香もテレビや勤務先で耳にしていた。


二ヶ月前から突然にいなくなっていく子供達。誘拐だの祟りだの様々な尾鰭がついて、今ではどこまでが本当の事かわからなくなっている。


――跡形もなく消えてしまった蒼依の姿。あれは、まさに"神隠し"の言葉に相応しい光景だった。


遥香が悶々と考えを巡らせていると、隣から震える声が聞こえてきた。


「……どうしよう。もし……恭が死んだりしたら……」


泣きながら途切れに途切れに呟く宏海に気付き、遥香は慌ててテレビの電源を切った。そして、宏海の姿を不思議そうに眺めている裕太に精一杯の作り笑顔を向ける。


「裕太くん、ちょっと二階に上がっていてもらえるかな?」


裕太が二階に上がっていくのをしっかり確認した後、遥香は再び宏海に視線を戻す。両手に顔を埋めて泣き続ける宏海を見ていると、何故か少し虚しくなった。


――これが子供を失った親の本来の姿なんだろうな。


なぜ、自分はこんなにも落ち着いているのだろう。同じく子供がいなくなった身なのに。


もちろん、蒼依の事は心配だった。どこに消えてしまったのか、本当に無事なのか。


しかし何故か心の底から『帰って来てほしい』とは思えない。今はまだ……蒼依を失った辛さより今までの生活の苦しみの方が勝っているのだ。


――子供達は知らないだろうけど、親だって不安になるの。だって子育てにマニュアルがあるわけじゃないでしょう?


親だから全てを知り尽くしているわけじゃない。私達だって人間なんだもの。


自分の経験を踏まえて、考えて、悩んで……一番いいと判断した選択を子供に与える。自分と同じ過ちを繰り返させないために。


でも、それが正しいものか間違っているものかなんて分かるはずもない。


未来なんて見えるわけがないのだから。大人にも、子供にも……。


【Adults Side*END】