突然後ろから声をかけられた恭が、咄嗟に銃を構えながら振り返る。が、銃口の先にいるのが蒼依だと認識すると慌てて銃を下げた。
「蒼依……」
驚くように目を見開く恭に、蒼依が悲しげに問い掛ける。
「私は殺さないの? 光璃ちゃんみたいに」
その言葉の直後、恭の眉が小さく痙攣した。恭は銃を仕舞いながらゆっくり視線を落とす。
「光璃ちゃんは仕方なかった。あの子は帰りたいっていう意思が強かったから。いつか必ず俺の邪魔になる……そう判断したんだ」
「だから殺したの?あんなに幼くて優しい子を?」
黙ったまま目を逸らす恭にしびれを切らし、蒼依が恭の両腕を掴んで強い口調で問い掛けた。
「ねぇ!どうして!? いつも明るく笑っていた恭が……どうしてあんな残酷なことをしなきゃいけなくなっちゃったの!?」
――恭の笑顔は私の憧れだった。『私も何か熱中できるものを見つけたい』……そう思わせてくれるような温かいものだったのに。
ぽろぽろと涙を流す蒼依を見下ろしていた恭だったが、やがて自身の腕を掴む蒼依の手を離して小さく言葉を発した。
「笑っている人間には……悩みがないとでも思うか?」
「え……?」
「悩みのない人間なんていねぇんだよ。俺だって辛かった。定められた将来や母さんの期待の重さに耐えられず、逃げ出したくて仕方なかった」
驚きの色を見せる蒼依を横目に、恭は無表情のまま話を続けた。
「そんな中でバスケをしている時だけが唯一の救いだった。部活の間だけは嫌なことを忘れられたから。けど、母さんは……そのバスケさえも、俺から奪っていくんだ」
恭は皮肉るように笑っていたが、目は今にも泣き出しそうなほどに潤んでいる。
「Separate Worldは俺に"自由"を与えてくれた。だから、俺はこの世界を守る……どんなことをしても」
力強い口調でそう言い終えた恭の目には微塵の迷いもなく、固い決意だけがしっかりと読み取れた。
言葉を詰まらせる蒼依に、恭が小さく微笑みを見せた。
「蒼依、俺と一緒に来ないか?」
「恭と……?」
「そう。お前なら大歓迎だよ。大事な幼なじみだからな」