―Children Side―
その日の夜……皆がそれぞれの個室で寝静まる中、蒼依だけは眠れずにいた。なんとか眠ろうと布団には入ったものの、目を閉じると嫌な映像が目の前に広がってしまうのだ。
冷たく笑う恭の顔と息絶えた光璃の姿……。
蒼依はやむなく眠るのを諦め、気分を変えるために部屋の窓を静かに開けた。
開いた窓から外に目をやると、少し離れたところに神社の大きな鳥居が目に入った。蒼依が昔、恭とよく遊んだ神社だ。
蒼依が懐かしそうにその神社を眺めていると、そこの石段に一つの影が見えた。
「恭……?」
遠目からでも目立つ長身に少しくせ毛の入った黒髪。間違いなく恭の姿だ。
恭は一人で石段に座り、考え事をするようにぼぉっと一点を見つめていた。蒼依が注意深く辺りを見回したが、昼間に一緒にいた仲間がいる様子はない。
――恭はいつも優しかった。なんであんなに残酷な事をしたのか……私は恭の本当の気持ちが知りたい。
蒼依は意を決し、部屋を出ようとドアノブを掴んだ。が、そこでぴたりと動きを止める。
今、玄関からマンションを出ると他の部屋で寝ている隼人達に気付かれてしまう。恭の居場所を教えれば、隼人は確実に恭を殺しにかかるだろう。
――そんなの絶対だめ!…ってことは……
蒼依は開けっ放しの窓の方を振り返った。
幸い蒼依の部屋にはベランダがある上に高さも三階ほどしかないため、大きな木をつたって外に降りることが出来そうだ。
蒼依は出来るだけ音を立てないように窓から外へと抜け出す。そして地に足が着くと同時に、神社を目指して全速力で駆けて行った。
神社にたどり着くと、恭は相変わらず虚ろな目をしたまま座り込んでいた。背後で息を切らしている蒼依に気付いている様子はない。
蒼依は息を整え、ゆっくり口を開いた。
「……恭」