「俺から離れるなよ。いつでも逃げられるように準備しとけ」
隣を歩く蒼依に、隼人が小さな声で耳打ちした。蒼依はしっかりと頷き、鞄の中の拳銃を強く握る。
そんな二人のやりとりに気付いているのか、いないのか……青年は鼻歌混じりに前を歩き続けている。
しかし周りには充分に気を使っているようだ。注意深く辺りを見回し、狙撃銃を握る手に緩みはなかった。
「あ、そうや!」
青年が突然に立ち止まり、隼人と蒼依の方を振り返った。それと同時に蒼依達が警戒するように身構える。
青年はそんな二人につかつかと歩み寄り、笑顔を見せた。
「ちょっと失礼するでー?」
そう言って蒼依が着ている服の首元を探り出した。
「え!? 何!?」
「あー……やっぱ、壊れてしもたか。水には弱いしなぁ」
青年は残念そうに呟きながら、蒼依の服に埋め込まれていた黒い物体をもぎ取った。青年の持つその物体は、数センチにも満たない小さな機械のような物だっだ。
「何それ?」
蒼依は自分の服にそんな物が埋め込まれていた事に驚きながら、訝しげに尋ねた。
「俺が造った盗聴兼発信機。俺、機械の改造が得意でな。マイク機能もつけといたから俺の声も送れるってわけ。さっき、橋の上で俺の声が聞こえたやろ?これのおかげやねん」
自慢げに胸を張りながら言う青年に、蒼依が目を瞬きながら口を開いた。
「そんな物、いつの間に……?」
「それ付けたんは昨日の夜中や。あんたらが寝てる間に忍び込ませてもらったよ。いやぁ、昨日に決行して良かったわぁ。これ無かったら助けられへんかったし」
その傍らで、隼人が自分の服にも同様の機械が付いていることに気付き、それを片手で握り潰しながら青年を睨んだ。
「いつ、俺達に目を付けた?」
隼人の問いに青年がふっと笑いかけ、再び歩き出しながら話し出す。
「初めて見掛けたんは学校やなぁ。使える部品を失敬しようと教室を探ってた時や。武器持っとったみたいやし、何しとるんかなーって様子見ててん」
前を歩く青年の後に続きながら、隼人が目を細めながら口を開いた。
「今まで感じていた視線の正体は……お前か」