「助けてあげられなくて……ごめんね」


蒼依が涙ながらに呟いた時、突如光璃の身体が薄れだした。少しずつ透明になってゆく光璃の姿に、隼人も目を見開く。


「何?」


蒼依が慌てて光璃を抱き上げようとしたが……その手は、呆気なく通り抜けてしまった。その直後、目を見張る蒼依と隼人の目前で光璃の遺体は完全に姿を消した。


「消えた……なんで?」


先程まで光璃が横たわっていた場所を手で探りながら、蒼依が小さな声を出した。それに続き、隼人も眉を寄せながら話し始める。


「まさか……死んだら、遺体は元の世界に帰るのか?」


「じゃあ、光璃ちゃんは親のところへ帰ったの?」


蒼依の脳裏に、突然娘の遺体を目にした光璃の両親の姿が浮かんだ。


――行方不明だった娘が、抜け殻となって帰ってくるなんて……どんな気持ちなんだろう。


そう考えただけで胸が痛くなり、光璃を助けられなかった自分に憤りを感じた。光璃が最期に見せた涙が頭から離れない。恭の心を案じ、裕太の姿を求めていた……あの目が。


蒼依の目から悔し涙が流れた、次の直後……


「危ないとこやったなぁ」


上方から男の声が聞こえた。先程、橋の上で指示をくれた声だ。


見上げると、堤防の上で狙撃銃を担いでいる十七、八歳程の青年が見えた。


キャップ帽の合間から金髪をちらつかせているその青年は、人懐っこい笑顔で堤防から駆け降りてくる。


「誰だ?」


隼人が口が開くと共に、手に握っている拳銃の銃口を青年の額に向けた。しかし青年は怯む様子もなく、明るい声を発する。


「まぁ、俺が誰かは後で話そうや。あんたら、びしょ濡れやし。とりあえず俺についてきぃ!」


青年は気軽にそう言うと、くるりと向きを変えて川沿いに歩き出した。


しかし、蒼依と隼人は青年に続いて歩こうともせず、相談するように目を合わせている。すると、前を歩いていた青年が振り返り、手招きをしながら呼び掛けた。


「はよ来ぃや!またあいつらが戻って来たらマズイやろー?」


その声を聞いた隼人がようやく足を踏み出し、用心深く青年に近づいた。蒼依も急いでそれに続く。