「……お前」
隼人が鋭い目で恭を睨む。しかし、恭はその状況を楽しむようにククッと笑った。
「こいつら全員、俺のオトモダチ。お前らとは違って、この世界に救われた奴らだよ」
「救われた?」
隼人が目を細めながらオウム返しに尋ねた。その言葉の直後、恭が一気に険しくなった。
「みんながみんな、元の世界に戻りたがってるとでも思ってたのか? この世界に留まりたい奴だっているんだよ、俺も含めて」
「恭、なんで? 恭も帰りたかったはずじゃ……」
蒼依の問いに、恭は無表情でこう問い返す。
「俺がいつ帰りたいなんて言った? 帰る気なんてさらさら無かったよ。初めからな」
恭が不敵な笑みを浮かべ、さらに吐き捨てるように言い放った。
「いらねぇんだよ、大人なんて。自分の都合ばっかり押し付けやがって。あんな世界に戻るなんてごめんだ」
信じられなかった。いつも温かい笑顔を見せていた幼なじみが……あんなに冷ややかな顔をしていることが。
蒼依の目に自然と涙が溢れた。そんな蒼依をよそに、恭は淡々と話を進める。
「けど、俺はこの世界に来て間もないし状況も分からない。だから、しばらくお前らと行動して様子を見てた。そんな中で晴真[はるま]と出会った」
恭がそう言いながら、蒼依達を取り囲んでいる四人のうちの一人を指した。そこには十七歳程度の男がほくそ笑みながら立っている。
「いつの話だ? お前はずっと俺達と行動していた。そんな奴と出会うきっかけなんか……」
「あったんだよ。覚えてるよなぁ? 理科準備室での事」
隼人の言葉を遮って、恭がニヤつきながら尋ねた。
理科準備室。それは銃声が鳴り響いた部屋だ。
あの時、部屋から出てきた恭は『誰もいなかった』と言っていたはずだ。あの発砲も『ゴキブリのせいだ』と。
……まさか、あれは嘘だったのだろうか。
蒼依達がそんな考えを巡らせる一方、晴真と呼ばれた男が面白がりながら話した。
「あの時は焦ったよ。準備室で昼寝してたら、いきなり恭が銃を向けてくるんだもん。『元の世界に帰りたいか帰りたくないか十秒で答えろ』って言ってさ。揚げ句、発砲しやがって」