一方、先程の鉄橋の上では緊迫した空気が流れていた。
恭は光璃と視線を絡ませたまま、眉をひそめながら口を開く。
「今日の朝……って?」
光璃は目を伏せ、小さな拳をぎゅっと握りしめながら話し始めた。
「みんながまだ寝ていた頃です。光璃は目が覚めてしまって……トイレに行こうと部屋を出た時、玄関で話し声が聞こえました。覗いたら、恭ちゃんが知らない男の人と話していて……」
「内容まで聞いたんだ?」
そう言う恭の顔に曇りが見えた。恭の表情に怯えながらも、光璃は必死に恭の腕を掴んだ。
「恭ちゃんの気持ちもわかります!でも……」
光璃がそこまで言った時、後ろから明るい声が聞こえた。
「恭、光璃ちゃん。おまたせ!ほんと、ごめんね」
光璃と恭が同時に振り返ると、蒼依と隼人がこちらに走ってくるのが見えた。
光璃は掴んでいた恭の手を急いで離し、再び気まずそうに俯いてしまった。恭はゆっくり立ち上がり、光璃に向かって小さい声を発した。
「光璃ちゃんは、どうなんだ?」
その言葉に、光璃は困惑したように眉尻を下げながら恭を見上げた。そして少し考えた後、ゆっくり口を開く。
「光璃の気持ちは変わりません。光璃のいるべき場所は、ここじゃないから。だから……恭ちゃん、考え直してほしいです。光璃は恭ちゃんが大好きだし、離れたくないです」
抱きつきながら涙声でそう呟く光璃を、恭が柔らかく微笑みながら見下ろした。
「そっか、ありがとう。俺も光璃ちゃんが大好きだよ」
恭の言葉に、光璃が抱きついたまま顔を上げた。その目は嬉しそうな輝きを放ちながら恭の姿を捉えている。
「でも……」
恭が言葉を発した、その次の瞬間……
ドスッ
鈍い音と共に光璃の顔から笑みが消えた。
光璃は見開いた目で恭を見つめながら後ずさりしていく。光璃が押さえている左胸からは、赤い血が滴っていた。
「……恭……ちゃ……」
「ごめんな。こればっかりは譲れないんだ」
恭が氷のように冷たい微笑みを光璃に向けながら言い放つ。その右手には鋭く光るナイフが握られていた。