「あった!」
恭の家にある和室の机上に拳銃を見つけ、蒼依はホッと胸を撫で下ろした。しかしそれも束の間……蒼依の頭に、鬼の如く怒り狂う隼人の姿が浮かんだ。
――やばい。早く戻らなきゃ、桐生に殺される!
生命の危機を感じた蒼依は、急いで玄関の方へと走り出す。玄関の扉まであと数歩と近付いたとき、扉が開いて息を切らせた隼人が入って来た。
「とーくーなーがー!」
――わぁ……既にお怒りですか。
隼人の憤怒の表情を見て後ずさりをする蒼依に、隼人が容赦なく怒号を浴びせた。
「思ったままに動くな! そして人の話を聞け!」
勢いのある説教が蒼依に襲い掛かる。蒼依は身を縮めて両耳を押さえ、逃げるようにのけ反った。
「ごめんってばー! そんな頭ごなしに怒鳴らないでよー」
泣きそうな声で反論する蒼依を見て、隼人が小さく舌打ちをした。
「……で? 見つかったのか?」
なんとか気を落ち着かせた隼人が問い掛けた。蒼依は小さく頷き、拳銃をかざして見せる。
「たく。徳永のせいで無駄な汗をかいた」
隼人が不機嫌そうに額の汗を拭いながら呟いた。蒼依を追い掛けるため、全力疾走をしてきたらしい。
蒼依は、そんな隼人を見つめながら少し考えた後、相談を持ち掛けるように言った。
「ねぇ、名字で呼ぶの、そろそろやめない? いつまでも他人行儀だと寂しいし」
「他人以外の何物でもないと思うけど」
隼人は相変わらずの素っ気ない態度で返す。しかし、そんなことでめげる蒼依ではない。
「だって同じ目的を持ってる仲間でしょ? 私は"蒼依"でいいから!よろしく、隼人!」
蒼依が握手を求めるように手を差し出すが、隼人はふいっと顔を背け、玄関の扉を開けて外に出るように促した。
「そんなのどうでもいいから、さっさと戻るぞ」
――もう、せっかく歩み寄ろうと努力してるのに!
蒼依がそんな不満をぶつける間もなく、隼人はさっさと外に出ていってしまった。
「ちょっと待……」
そう言いながら外に出ようと駆け出したとき……蒼依は玄関のタイルに足を取られ、正面から豪快に転んでしまった。