「絶対負けないんだから!」


長年負け続けた怨みを晴らしてやる……そう心に決めながら、蒼依はゴールを守るように両手を広げ、守りの体制に入って恭を待ち構えた。


そんな蒼依に笑いかけていた恭の目の色が瞬時に変わり、ゴールを目指して勢いよく駆け出した。その無駄のない動きには目を見張るものがある。さすがバスケ部のエースと頷かずにはいられなかった。


しかし、だからと言って蒼依も黙っているわけにはいかない。隙をついてボールをカットしようと手をのばす。が、恭はそれを華麗によけ、余裕の笑みを向けた。


「俺からボール奪おうなんて、百年早ぇんだよ!」


蒼依の守りをすり抜けた恭は、そう言いながら地を強く踏み、高く飛んでダンクを決めた。


「うっそ……ダンク!?」


「見たか、俺の努力の賜物を!」


恭が大笑いする傍らで、蒼依は驚きに目を見開きながらゴールを見つめていた。まさか恭がダンクをマスターしているとは知らなかったのだ。


「……怖じ気づいたのか?」


恭が意地悪い顔付きで蒼依の顔を覗き込んだ。それと同時に、蒼依が意識を取り戻し、精一杯虚勢を張った。


「ま、まさか!これからだよ!」



しかし、それから十分後……



「くやしーい!また勝てなかった!」


蒼依は地面にごろんと寝転がりながら叫んでいた。結局、あの一本以外にシュートを決めることが出来ず、恭の勝利を許してしまったのだ。


見事連勝記録を更新した恭は、悠々とした表情で蒼依の横に座った。その顔がまた、蒼依のしゃくに触る。


「でも、蒼依もずいぶん上達したんだな!あんなどんくさかったヤツと同一人物とは思えねぇ」


蒼依が「どんくさくて悪かったわね」という目で睨んでいるのを知ってか知らずか、恭は爽快な笑顔で夜空を眺めている。


――ほら、恭はいつもキラキラ輝いてる。本当にやりたいことをやっている、満ち足りた顔。そんな笑顔を作れる恭が……私は羨ましくて仕方ないんだ。


そんな事を思っていると、ふと昼間の恭の顔がよぎった。『"好き"だけじゃ、生きていけない』……そう呟いていた恭の暗い顔が。