「もしかして、桐生達かな?」


準備室の前で足を止めた恭に、蒼依が小声で囁いた。しかし、恭は眉をひそめながら首を横に振る。


「いや。職員室は反対側の校舎だし、この廊下は絶対通らねぇよ」


「じゃあ……誰?」


蒼依が不安げに準備室の扉を見つめた。ここには大人はいない。いるとすれば、大人に捨てられた子供達……。


『ここには、親から見捨てられた問題児が集まってんだよ。どんな危険な奴がいるかわからない。最悪を考えると最低限の武器は必要だろ』


以前に隼人から言われたその言葉が頭を廻り、蒼依の恐怖心を掻き立てた。


「蒼依、さっきの銃貸して」


警戒するように準備室を見つめたまま、恭が手を差し出した。蒼依は急いで鞄から拳銃を取り出し、その手の上に乗せる。


「蒼依はここで待ってろよ」


恭はそう言うと、緊張の面持ちで銃を構え、ゆっくりと準備室の中へ入っていった。




それから数分が経った。蒼依は手に汗を握りながら、恭の帰りを待っていたが……恭が出てくる気配は一向に感じられない。


――恭、遅い。大丈夫かな。


蒼依がそう思った瞬間……


パンッ!


中に恭がいるはずの準備室から、乾いた音が鳴り響いた。紛れも無い、銃声だ。


――恭!?


蒼依は蒼白な顔で準備室を見つめた。痛いほど動悸が速くなり、息をするのも苦しい。


茫然と立ち尽くしていた蒼依が我に返り、急いで準備室の扉に手をかける。それと同時に、遠くの方からバタバタと二人分の足音が近づいてきた。


「徳永!今の音はなんだ!?」


蒼依が振り返ると、隼人と光璃が血相を変えてこちらに向かってくるのが見えた。


「さっき、あの部屋から物音がして……恭が調べにいったの!そしたら、銃声が……」


蒼依が目を潤ませながら隼人に事情を説明した。それを聞いた隼人の目に、焦りと緊張が走る。


「お前ら、そこから動くな!」


隼人は蒼依と光璃にそう言うと、自分の拳銃を取り出して部屋へと近づいていった。


隼人が緊張を押し出すように息を吐き、部屋に駆け込もうと扉に手をかけた。その瞬間……隼人が開ける前に勢いよく扉が開いた。