「わかんない。聞いてみたんだけど、話逸らされちゃって。結局教えてくれなかったんだ」
蒼依は残念そうに言いながら拳銃を鞄に戻し、再び医薬品を詰め込み始めた。
「……ふぅん」
難しい顔で黙り込む恭の横で、ようやく医薬品類を詰め終えた蒼依が明るい声を上げた。
「よし、これぐらいでいいかな!」
「じゃあ、待ち合わせ場所に戻るか」
考え込んでいた恭がようやく顔を上げ、二人は保健室を後にした。
待ち合わせ場所に向かって長い廊下を歩いていると…静かな校内に、二人の足音だけが嫌に響く。そんな不気味さに身震いしながら、蒼依が静かに話し出した。
「なんか、人がいない学校って気持ち悪いね」
「そうだなぁ。こんな静かな学校を見るのなんて初めてかも」
そう言いながら辺りを見回していた恭の目が、はたと動きを止めた。その視線の先には、壁に掛かっている時計がある。
「あ、もうすぐ部活が始まる時間だ!バスケしてぇなぁ……」
恭が大きく伸びをしながら、うらめしそうに呟いた。そんな恭を蒼依が少し悲しげな目で見つめている。蒼依の視線を感じ取った恭が不思議そうに尋ねた。
「何?俺の顔に何か付いてる?」
「あ、ううん。羨ましいなぁって思って。恭はいつもキラキラしてるもん。私はやりたい事とか好きな物とか特にないし。ほんとにバスケ一筋なんだね」
蒼依のその言葉の直後、何故か恭の顔が陰った。
「一筋なわけじゃねぇよ。他にもやらなきゃいけない事は山ほどある。"好き"だけじゃ……生きていけねぇんだ」
その声には、いつもの脳天気さは微塵もなかった。あまりの恭の変わり様に、蒼依が心配そうな目を向ける。
「恭?」
蒼依が恭に呼び掛けた、その時……
ガタン
歩いていた廊下の先で物音が聞こえた。恐らく、音の出所は数メートル先にある理科準備室だ。
「な……何?」
蒼依が準備室を見つめながら呟いた。恭は音を立てないように、ゆっくりと準備室に近づいていく。