その頃、蒼依と恭は既に保健室の扉の前に辿り着いていた。恭が豪快に扉を開け、中に入る。
「失礼しまーす!」
「恭、挨拶したって誰もいないよ」
「あ、そっか」
蒼依の指摘に、恭がへらっと笑いながら頭を掻いた。
蒼依は、そんな恭を見て小さくため息をついた後、慣れた様子で保健室の中へ入っていった。
「コブなら、冷やさなきゃだね。冷凍庫に何か……あ、これでいいか」
嬉しそうに言う蒼依の手には、氷枕が握られている。蒼依は恭の背後に廻り、患部に氷枕を押し付けた。
「冷てっ!」
恭が痛さと冷たさで飛び上がり、叫び声を上げた。しかし、蒼依は恭の反応を適当に流す。
「我慢、我慢。ちゃんと押さえといてよ。他は怪我してないの?」
「うん、平気」
「そっか。……桐生が薬持ってこいって言ってたよね。どれにしよう?」
蒼依が薬品棚を物色しながら、恭に意見を求めた。恭は氷枕を頭にあてたまま、蒼依の背後から薬品棚を覗き込む。
「消毒液とか? せっかくだし、湿布とか包帯も持っていこうぜ! あ、この薬品は何なんだろ?」
好奇心の向くままにそこら中の薬品をいじり出す恭の腕を掴み、蒼依が呆れながら注意した。
「もー。最低限の物だけでいいんだよ! 鞄に入らないもん!」
蒼依がそう言いながら、医薬品を鞄に詰め込もうとした時……
ガシャン!
蒼依の鞄から拳銃が落ち、床に転がった。恭が屈んで拳銃を拾い上げ、まじまじと見つめる。
「これ……本物?」
「うん、桐生から預かったの。護身用に持っとけって」
「へぇー。あいつ、怖ぇ奴だな」
恭が驚きと感心が入り混じったような顔で呟き、蒼依に拳銃を返した。蒼依は拳銃を受け取りながら、愚痴を零す。
「桐生ってば、物騒な事ばっかり言うんだよー。『どんな危険な奴がいるかわからない』とか『破壊してでも元の世界に帰ってやる』とか!」
「破壊? Separate Worldを?」
恭が目を見開きながら尋ねた。頷く蒼依を見て、恭が考え込むように眉間にしわを寄せる。
「……そこまでして戻りたい理由って何なんだ?」