少女の警戒心を解くために、蒼依は必死に声を張り上げた。
「あのね! 私達、この世界から帰る方法を探してるの」
予想外の蒼依の言葉に、少女が目をパチパチさせながら尋ねる。
「帰る? 元の世界に?」
「そ……むぐっ!」
突然背後から伸びた手に口を塞がれ、蒼依はそれ以上話せなくなってしまった。隼人の手だ。
「ドアホ! ぺらぺら喋ってんじゃねぇよ!」
そう怒鳴り散らす隼人の手を払い、蒼依が反論した。
「こんな小さい子だよ!? 桐生、疑い深すぎ!」
「お前が単純すぎんだよ!」
そんなやりとりをしばらく傍観していた少女は、やがて踵を返して去ろうとした。しかし、蒼依が少女の細い腕を掴んで引き止める。
「待って! あなたは……帰りたくないの?」
「……帰りたいです。でも、帰る場所なんてないです。お父さんに『出ていけ』と言われました」
「お父さんに?」
気遣わしげに問い返す蒼依の目を真っすぐに見つめながら、少女が深く頷いた。少女の目には、再び悲しそうな光が宿り始めていた。
少女のそんな様子を見た蒼依が、ゆっくりと口を開く。
「でも……帰りたいんでしょ? だったら、一緒に帰る方法探そうよ」
「おい! なに勝手な事言ってんだよ!」
「だって放っておけないよ!」
互いに譲らない蒼依と隼人を交互に見つめ、少女は落ち着いた声を発した。
「行きません。知らない人に付いて行ってはいけないという言い付けがあります。良い子は言い付けを守らないといけません」
少女がそう言って歩き出した時、
ドサッ……ゴン!
少し離れたところで鈍い音が聞こえた。その直後に苦痛に満ちた声が響く。
「いってぇぇ!」
蒼依、隼人、少女が一斉に声の方を向く。そこには公園に隣接して建っている一軒の家があった。
どうやら、声の主はその家の二階にいるらしい。
「あれ? この家って……」
蒼依は家を見つめながら呟くと、隼人と少女を残して、家の中へと入っていった。
「待て!」
……そんな隼人の叫びが、蒼依に届く事はなかった。