「まさか……これが神隠し?」


蒼依の呟きに、隼人が素早く反応した。


「神隠し?」


「うん、噂になってるの。子供が神隠しみたいに跡形もなく消えていくって」


「ふぅん、そんな噂になってんだ」


隼人が頷きながらそう言う傍らで、蒼依は考えを巡らしていた。


――そもそも、なんでこんなところに来ちゃったんだろう。

"必要性が失われたため"……ってことは、私が『お母さんなんかいなくなればいい』って思ったから?

何にしても、こんな不気味なところに長居するなんて嫌!


「ねぇ……私、帰りたい。どうやったら戻れるの?」


蒼依の質問に、隼人は首を横に振った。


「無理。徳永と徳永を送った大人が、一致して元の世界に戻ることを望まないかぎり」


「それって、お母さんと私が一緒に"戻ること"を望まないといけないってこと?」


素っ気ない態度で頷く隼人を見た蒼依は、同時にある事実に行き着いた。


蒼依は今、元の世界に帰りたいと願っている。それにも関わらず、戻れないということは……


――お母さんが、私を必要としていない……から?


『あんたなんて生まなければよかった』……遥香のその言葉が、何度も蒼依の頭の中で呼応する。


蒼依はそれを振り払うように、ぎゅっと目を閉じた。


とにかく、今専念すべきは元の世界に帰る方法を見つけだすこと。蒼依はその事に集中し、遥香の暴言を脳内から追い出した。


「桐生も同じような理由でここに来たんでしょ?帰りたくないの?」


蒼依が少し遠慮がちに尋ねた。隼人は平然とした顔で当たり前のように答える。


「俺は帰るよ。こんなとこで生きてたって意味ないから」


「でも、どうやって……?」


「それを今探してんだよ。俺は帰らなきゃいけないんだ。絶対に」


隼人は憂いを帯びた目で前を見据え、すたすたと歩き出した。


「あ、ちょっと待って!」


「何だよ。付いてくんな」


「一人になりたくないもん!」


ただでさえ気味の悪い静けさに包まれているのに、夜の暗闇のせいでさらに心地が悪い。蒼依は、隼人の腕をがっちり掴んで離さなかった。