……ドサッ!
身体全体を地面に強く叩き付けられ、蒼依は「うっ!」と苦痛の声を出した。
蒼依が打ち付けた肩をさすりながら起き上がると、遥香と喧嘩したときと全く変わらない光景が広がっていた。
しかし、どこかおかしい。さっきまで聞こえていたはずの騒がしい人声も車の走る音も何一つとして聞こえないのだ。辺りは怖いぐらい静寂に包まれていた。
「お母さん?」
蒼依が恐る恐る周りを見渡したが、遥香の姿はどこにもない。
――えっと……何があったんだっけ?
確かお母さんと言い合いしてたんだよね。
それで、いきなり目の前が真っ暗になったと思ったら、突然地面に叩き付けられて……。
そこまで思い返したとき、ふと傍らに立つ喫茶店が目に入った。さっきまでたくさんの人で賑わっていたはずの店内は真っ暗で、人っ子一人見当たらない。
――なんで? みんな、どこに行ったの?
周りの静けさが不気味さを倍増させ、とてつもない不安と孤独感が襲い掛かる。蒼依は自分の脈がどんどん速くなるのを感じた。
「お母さーん!」
蒼依は幼い迷子の様に叫んだが、どこからも応答はない。しかしその時……途方にくれている蒼依の耳に、突然背後から足音が聞こえた。
「……徳永?」
その声に振り返ると、目に入ってきたのは懐かしい男の姿。
メッシュの入った茶色の髪、耳には数個のピアス。四日前に行方不明になっていたクラスメイト、桐生隼人だ。
蒼依は口を半開きにしながら隼人を見つめていたが、やがて我を取り戻し、裏返った声で問い掛けた。
「桐生!? なんでこんなとこにいるの!?」
「それは俺の台詞。いつ、こっちに来たわけ?」
胡散臭そうに蒼依を見下ろしている隼人の言葉に、蒼依は眉を上げながら尋ねる。
「こっち?どういうこと?」
「……もしかして、来たばっかかよ。じゃあ、もうそろそろ分かるんじゃない?」
隼人がそう呟いて空を見上げた時、突然白い鳥が頭上に現れた。その鳥は蒼依の目の前に一枚の封筒を落とし、颯爽と飛び去る。
「なにこれ?」
蒼依は、落とされた封筒を拾い上げながら隼人に問い掛けた。