麻子の家へ来るのは初めてで、まさかそれが引っ越しの手伝いになるとは思わなかった。
つい最近終わった卒業式。
受験という厳しい鎖から解き放たれたように遊びほうけて─といってもほぼバスケをしていた気がするが─あっという間に春休みも終盤を迎えようとしていた。
休みになった途端、茶色く染まった翔太の髪。
合格祝いに買ってもらった新しいバッシュ。
難関の第一希望の大学に見事合格し、春からは関東で一人暮らしを始める麻子。引っ越しは、もう明日に迫っていた。
中身は何も変わらないまま、俺たちは大学生になる。
─違う道を、進んでく。
「元〜っ!!ちょっと来て!!」
焼きたてのケーキを二つもお腹に収め、また段ボールの山に向き直ってすぐ。隣の部屋から、麻子が俺の名を呼んだ。
あくびを一つ二つ漏らしながらのっそりと声の方へ向かうと、振り向いた麻子は満面の笑みで一冊の分厚い本のようなものを差し出した。
「…何の本?」
「アルバムっ!整理してたら見つけちゃった!」
受け取った腕に走る、ずっしりとした重み。
中身をぎっしり詰め込んだその水色の表紙には、「城下高校バスケ部」の丸っこい文字が並んでいた。
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