「はぁ……分かった」


まるで「負けました」とでも言うように梨香は手を上げると、鞄からケータイを取り出してドコかに電話をかけ始めた。

「……?」

何をするのか見当もつかない実景は、梨香の同行を見てるしか出来ない。 一方百は梨香の行動の真意が掴めたみたいで、

「甘やかしすぎだって」

そう漏らしていた。
そんな事をしている内に梨香の電話相手が出たようで、会話が始まった。

「あ、ウチだけど、龍のクラスで昨日作文やったんだろ? 実景が担任に書き直せって言われたらしくて……いや、テーマ分からないらしくてさ。 しょうがない馬鹿だからな。 ……ん? あぁ……分かったサンキュー。 いや今日は無理だから。 じゃあ」

大体一分位会話をしてから梨香は電話を切った。 そして実景に向き直ると、

「今からテーマ言ってやるから忘れないように紙に書いとけよ」

そう言って実景にルーズリーフとシャーペンを渡した。

「お願いしますっ」

そして準備が出来た実景は梨香の言葉を待った。

「二度は言わないからな? 『自分の将来とその為の計画を進路を交えて詳しく書き記せ』だってさ。 龍に聞いてやったんだから明日お礼言っとけよ?」

「あっ! 龍くんに電話してくれたんだ」

龍というのは赤塚 龍という男の子で梨香や百と同じ中学からの友達で実景と同じ学校でクラスメートで梨香の彼氏さんである。

頭の関係上梨香と同じ高校には行けなくて、変わりに梨香から『実景を頼んだ』とのお願いを受けて実景と同じ高校に来たらしい……。

実景も梨香も龍くんも歳同じなんだけどな?

「それより実景、今のでちゃんとテーマ覚えた?」

「え……っ!?」

いきなりの百の鋭い質問に顔が引きつったのを感じた。 メモも書いたし『テーマ』を覚えたかと聞かれれば確かに『テーマ』は覚えたけど……。

「意味は分からない……かな?」

最後に「あはっ」なんて笑ってみて誤魔化しを図ったけど、それが逆効果だった様で梨香が恐ろしい程の満面の笑みを作った。

「実景って本当に馬鹿?」

けれど笑顔とは裏腹に声は果てしなくドス黒い。




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