「どうした?」

 改めて高基教諭はひとみに聞いた。間違いなく田脳ことだろう。

「……」

「黙っていては話が進まないぞ」

 田脳のことなら話さなくていいと、高基教諭は内心思った。

「あの、今日の朝、本を理々君が持ってきてくれたんですけど……」

 田脳の名はなく、理々のことであった。

「あいつ、持ってきたのか?」

 高基教諭の心配も的はずれだったので、心はスッキリしていた。

「私が借りると言って、ランドセルの中にしまったんですけど……なくなったんです」

「なくなった? さがしたのか?」