「……たしか弘樹くんって、バイク乗ってたよね」


「うん?」


不思議そうに頷く遥に、私は勢いよく顔を上げる。


「あのうるっさいバイク音…
もしかして、あれだった?」


――思い出した。

あの日はさっさと眠ってしまいたかったのに、家の前にバイクがしばらく止まっていて。

ただでさえ眠れないのに、その上うるさくて最悪だったんだ。


「………」

首を傾げていた遥はしばらくすると私の言葉を理解したのか、気まずそうに目を逸らした。



(…そうだったんだ。)


「……近所迷惑だよ」

「うん。俺も耳おかしくなった」


"…すいませんでした"


それはギリギリ聞こえるくらいの小さな声。
バツの悪そうに顔をしかめて。



「連絡…、くれたらよかったのに」

"ばっちり起きてたよ"…なんて、悔しいから言わないけど。


「………」

遥は眉を寄せたまましばらく黙り込んだ後、口を開いた。



「いくら事故だろうと、あんな日に彼女待たせて他の女に付き添ってたなんて… 合わせる顔なかったし。

会って説明するにも、気分がいい話じゃないから。
わざわざその日に言わないほうがいいかなとか…考えて」

「…………」


大切な記念日。

だからこそ、できるかぎりその日は私が嫌な気分にならないように…ってこと?


「ただ…、俺がただどうしても凌に会いたくて。
本当に勢いで家まで行ったんだ。

着いてみてやっと、急に我にかえった」


「…………」


そんなの、