近所の酒屋さんの角を曲がったところで、ケータイが鳴った。

メール。

いつもなら、無視して後で。

でも、今は。今日は。

ビールの自販機の前で自転車を止めると、買い物に来た人みたいに立ったままケータイをのぞく。

「めちゃ、うれしい~。ありがとな」

侑哉らしい「~」と、絵文字ひとつないメール。


嬉しいの、こっちだよ。


ああ、これで。
ドラマや小説なら、家の前に侑哉がいてくれて。

なんてことはない。

むなしい街灯の下で、我が家の前では飼い猫のラルが出迎えた。

なあぅ。はラルの「お帰り」

「ただいま、ラル」

重いラルが自転車に飛び乗った。
妄想なんかあっという間に忘却の彼方。

それより現実が大事。

メール、なんて返そうかな。