「おじさん、この本いくらですか?」

おじいさんはまた微笑んで、わたしに言った。

「それじゃあ、この本はお嬢さんにプレゼント。出会った記念に」



わたしはまた来ますと約束して店を出た。

改めて店を見てみると“明日屋”と小さな文字で店の窓ガラスに書かれていた。

絵本の中に入り込んでしまったような気分だった。

路地裏の小さくて狭くて汚い古本屋さんとその古本屋の店主のいかにも優しげなおじいさん。

学校にいるよりずっと幸せだった。

久々に家までの足取りが軽い。

走った。

家までずっと走るつもりだった。

かばんの中の教科書やらペンケースやらノートがリズムのままにガタガタなっても気にせず走り続けた。