俺は放課後、帰ろうとしていた松藤を呼び止めた。
「あいつ、スゲー…」
バスケクラブであいつをはじめて見つけた時の印象だった。
俺はがっつり目を奪われていた。
一瞬で、あいつは憧れになった。
だけど、同時に残念に思った。
それは俺が転校する前日だったから。
俺はその時、バスケクラブを辞めにきていたのだから。
「あいつ、名前なんていうの?」
「松藤絵美だよ」
俺は友達の和真にそれだけ聞いて、監督に背番号‘7’のユニホームを返した。
だから、あいつがバスケを辞めたなんて、知らなかったんだ。
中学校の入学式であいつに一目惚れした。
はじめはあいつだってわからなかった。
偶然、好きになったのがあいつだった。
「何?なんか用事あるならさっさと言ってよ」
松藤のイライラした声にハッとする。
心臓が止まるんじゃないかと思うくらい、激しく動いて、身体中に血が巡っているのがわかって、手のひらに汗が滲む。
それなのに
「松藤が好きなんだ」
俺はあっさりと告げた。
松藤はふーんと笑った。
「ありがとう」
それだけだった。
「松藤、俺もありがとう」
俺は帰りかけていた松藤をもう一度呼び止めて言った。
松藤は振り返った。
「もう絵美でいいよ、背番号‘7’番」
そのまま帰ってしまった松藤の背中を俺は呆然と眺めていた。
口元が自然と緩む。
あの一瞬を、松藤が見ていてくれたことが嬉しい。
憶えていてくれたけとが嬉しい。
きっとこれからも俺はあいつを好きで―…和真には勝てない。
けど
まけねーよ