泰樹さんは立ち上がった。
「先生ーっっ!!!
最後の生徒さんがありがとーって
言ってますよーっっ」
わたしはハッとして泰樹さんを見た。
「遅くはないだろ?」
泰樹さんはニカッと笑って振り返った。
それから、また前を向いて、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ。
「だけどな、できることはできるうちにやっとけ。学生のうちは全部何をやっても自分のためになるんだからな」
「明日に何が起こるかなんて、わからんからな」
背中で語られているような気がした。
行かなくちゃいけない。
いますぐ、どうしても行きたいっっ!
「泰樹さん、行ってきます」
「おう、行ってこい」
わたしは走った。
一刻も早く会いたくて、わたしの中で何かが変わってしまう前に、会わないといけなくて。
おじいさん、次は後悔しないから―…
「深山ー、見てるか?」
今日も空は青い。
「そっくりだろ?深山みたいにどこまでも素直だ」
きっと、お前の事だから、好き勝手あちこちに遊びにいってるんじゃないか?
だけど、
だけど、さっきのは見ててくれたか?
「俺は―…
大人になれたか?
大人になれてるか?」