深山の話をしようか、そう言って、わたしが同意もしないうちに、泰樹さんは話始めた。


「深山恵(ミヤマメグミ)っていうんだ。

同じ部活で、感受性が強くて不思議な人だった。

本当にコロコロ表情が変わって、よく笑う人だったんだ―…


けど、死んだ。
高2の夏に、突然逝った―…よくわからない病気で」


「……僕はね、告白しなかったから。すればよかったって、今でも後悔しているよ」


泰樹さんは優しくわたしの頭を撫でた。


「絵美が言ってたんだ。“ドロップスをあげなきゃいけない人がいる”ってね」


驚いた。

まさか絵美ちゃんが出てくるとは思わなかった。

そうか、和真くんのお父さんは絵美ちゃんの叔父さんなんだ。


「珍しいんだ。絵美が自分からドロップスをあげるのは」


泰樹さんはポケットからドロップスの缶を取り出した。


「深山がこれ、好きだったんだ」


そう言ってわたしに一粒くれた。


「明日音ちゃんはもう大丈夫そうだ。黒松先生が心配していたんだけどね」


胸が詰まった。

心配されてたんだ。

絵美ちゃんにも、おじいさんにも、泰樹さんにも……すごくたくさんの人に。

いつの間にか、大事な人がこんなに増えてた。


「わたし……もっとちゃんとおじさんに、ありがとうって言ってればよかったっ」