嬉しいことがいっぺんに起きて、すっかり油断していた。
いいことは長くは続かない。
わたしはおじいさんの店の前で立ち止まった。
広瀬くんだ。
わたしはとっさに建物の影に隠れた。
学校では広瀬くんは一度もこっちを見なかった。
わたしは昨日のことのせいで広瀬くんが気になって、チラチラ見ていたのに、一度も目が会わなかった。
広瀬くんはなぜかお店に入って行った。
入り口の鐘がカランとなったのを確認して、窓の外から店内を覗いた。
おじいさんと広瀬くんは何か話している。
いけないかも、と思ったけど、やっぱり気になって、盗み聞きをすることにした。
音をたてないように気を付けながらドアノブに手をかける。
ゆっくり回して引くと小さくギーっと音がしてドキッとした。
幸い、中で話し込んでいる二人には聞こえなかったようだ。
高い本棚の影に隠れて二人の声が聞こえるところまで近づけた。
「じっちゃん……俺…悪いことした」
広瀬くんはテーブルに突っ伏していて、顔を上げない。
「……俺さ、好きじゃない奴に……告った」
広瀬くんの声は静かな店内に驚くほど響いて、わたしの耳に、届いた。