両手をグーにして、精一杯の勇気で立っている小さな彼氏に、いつかの自分が重なった。


あの日の私を、海もこんな気持ちで見つめていたのかな。



「…ねぇメガネくん、キミなら大丈夫だよ。友達いっぱい作ってさ、それで…っ」


彼と目が合った瞬間に、言葉が詰まる。

ずっと止まったままだった何かが動いたような気がした。



私を見つめる彼の視線に、私の嫌味な口を遮る彼の言葉に、心の型が外れた。



「嫌だよ先輩…あと少しだけ…少しだけだけでいいから…僕を見て。僕は…、満里奈先輩しかいらない。だから…僕を傍に置いてください…いらないなんて言わないで…、…せんぱ…っ」



ねぇ…ナンなのキミは…

…お願い


もう言わないで…


そう思ったら止まらない


至近距離で見る彼の瞳が、一層大きく開かれて、触れた唇。


「…せんぱっ…んっ」


抗議の声を全部呑み込む。

逃げるために開いた彼の唇の隙間を器用に埋める私の舌


だって言葉が見つからないの。


伝え方がわからない…この気持ち、そう思ってしまったから。


「んっ…ふっ…ぁ」


…駄目…まだ逃がさない。

型を失った心に染み渡るドキドキに、熱を帯びる口先。


「…んっ…せんぱ…ぃ…もう…僕…」



…ちゅぷりと離れた素直な唇


真っ赤な顔したキミは、やっぱり茹でダコみたいで、湧き出た愛しい気持ち



「もう…しょうがないなぁ…。これから覚悟してよね」


「…はい!」






離れても繋がっているために

必要だったのは、

キミに一途であること