「ふふっ、…思い出しちゃった」


柔らかく笑う満里奈先輩の髪を潮風がさらった。


「メガネくんの女装、可愛かったな」


「やめてくださいよ〜、またその話ですか」


「だって…、ほんと可愛かったんだもん」


「あれはっ、満里奈先輩が…」


「私がなによ」


「…もういいです」




部の打ち上げで、告白してきた先輩に、満里奈先輩が言ったんだ。


『女の子の格好して、私より可愛かったら付き合ってあげる』




僕の女装が満里奈先輩よりも可愛いなんてことは、地球がひっくり返ってもありえない。


だけど、「好き」なんて言葉より、きっと伝わるって思ったから。



あの日僕は、姉貴に、史上最高に恥ずかしいお願いをした。



生まれ変わった僕を見て、満里奈先輩は笑って言った。


『よろしく、私の彼氏さん』


その後のことはよく覚えてない。

僕を写メに収めた満里奈先輩が、切なそうに携帯を見つめていて、

先輩達にブーイングを受ける中、バカみたいに浮かれてた僕には、メールを送った相手が誰なのかなんて聞けるはずもなかった。






「あ〜あ、もう着いちゃう」


家の鍵を探す満里奈先輩が、あまりにもいつもと変わらないから、また明日も明後日もこうして隣を歩けるんじゃないかって期待してしまう。




「…満里奈先輩、…いで…」


「…ん?何?」



「行かないで」