誰もいない部室に、ボールを磨く音だけが静かに響いてた。
「さっきさ、監督と俺の話してたろ、俺がいなくなるの寂しいとか?」
「まさか」
「なぁ、満里奈」
目が合ったら反らせなくなるから、海が振り向く前に視線をボールに落とした。
「…お前なら大丈夫だよ。友達いっぱい作ってさ、それで…」
「友達ならいっぱいいるもの」
「そうだよな。人気者だもんな」
「恋だっていっぱいする」
…大丈夫かどうかなんて、海が決めることじゃないよ
「そうだよな…。俺も、頑張るよ」
「海には、いるじゃない。彼女」
泣きたいのはこっちなのに、海は切なそうな瞳で「…そうだったな」と呟いた。
「新入部員たくさん来るといいな」
「そうだね」
「あと可愛いマネージャーも」
「彼女に言い付けてやる」
「ははっ…、残念、その頃には俺いないって」
せっかく堪えてたのに、そんなこと言うから、何も言えなくなるじゃんか。
「満里奈、頑張れよ」
「急に真面目…」
「俺はいつだって真面目だよ」
「うん…。そうだね。」
「お、素直。」
「私はいつだって素直だよ」
「そうだな」
「マネージャーが入ったら、写メ送る。」
「おう、待ってる。」
「イケメンたくさん写メ撮って、メールしまくってやる」
「ああ、楽しみにしてる。」
じゃあなと言った海の声が、独りになった部室に響く。
失ってもまだ、気付かないでいた。
私たちには何が足りなかったのか
離れても繋がっているために必要だった言葉が見つからない。