院長先生は、ゆっくりと、口を開き始めた。

「あの子は、真宮 愛乃という名前でした。」
「本当ですか!?」

あたしは思わず、前に乗り出してしまった。

「2年前でしたか、空港に行く途中のタクシーが、信号を無視してきた車と、正面衝突しました。そこには、あの子とその両親が乗っていました。」

「両親は即死、あの子も意識不明の重体で、この病院に運ばれて来ました。」

「一命は取り留めましたが、生まれた日から、事故にあった日までのすべての記憶が失われてしまいました。
他に身寄りの無かったあの子は、子供の無かった私達夫婦が育てることにしたのです。実の娘のように。」