私は、もう既に、足がすくんでいた。


「おら、行くぞ」

後ろに居た恭一は、
私の背中を軽く押し出すと、
そのまま、ずっと手を添えていてくれた。


それでも、恐くて目をつぶり、
前に進のも困難な私は、

一歩だけ前に居る恭一の
上着の裾を引っ張っていた。


「服が脱げっから。」

私の手から服を奪い取った恭一だったが、

背中に添えていてくれた
自分の腕を差し出すと、

“しがみついてイイよ”的な、
素振りを見せた。


戸惑っていると、

「置いてくゾ!」

急かされ、慌てた私は、
その腕にしがみついていた。


「お前が入らなかったら隆志が残って、…そしたら鈴木が怒ったろ。」

(そんなこと考えてくれたんだ…あれ、鈴ちゃんのことバレバレじゃん)


それから先は、
恭一に意識してしまって
まったく恐くなどなかった。


出口を目前にして
恭一は、しがみつく私の手に、
左手でトントンと合図を送った。


「…ありがとう」


手を離すと、
何も無かったかの様に、冷静を装う二人。


それはまるで、
ふたりの間にに秘密ができた様な、
イケナイ事をしたような、

なんだか、そんな気分だった。