どれだけ走ったのか…

足がもつれ、路上に四つん這いになった私は、
切らした息を整え、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ふら〜っと歩き出して思う、

「あれ?こっちで帰れんのかな?」


驚いたことに、冷静な自分がそこに居た。

(きょーちゃんを失った時に比べたら、こんなの、どうってことないや!)


右に左に、キョロキョロしていると、
慶太の姿が見えてきた。

すると私は、
そばにあった自動販売機の影に隠れていた。

やはり、動揺しているらしい。


慶太の足音は、販売機の正面で止まった。

「…」

「何か飲む?」

「いらない。」

「あ〜、財布忘れた…金貸して。」

「…何しにきたの?」

「彼女を追い掛けてきたの。」

「じゃあ、早く追い掛けないと。」

「いい加減にしろよ。」

「あ、まだトイレに居るかもよ。」

嫌味を言う私に、腹を立てた慶太は、
販売機を思い切り叩いてみせた。

「壊れるよ。」

「自分のこと心配しろよ!」

「あ、帰り道ってこっちでイイの?」

懲りずに誤魔化し続ける、私の腕を掴む慶太を
振り払って遠ざかると、

「触らないでよ!」

初めて感情をぶつけた。

「違うって!トイレですれ違っただけだって!」