「おっしゃっ。あっち側に渡ろうぜ」

そう言いながら、紅茶を差し出す慶太に

「ありがと。」

と、ついていく私。


(言わなくちゃ。そのために来たんだから、はっきり言わなくちゃ!)

「じゃあー、思い出したくない場所なの?」

「え、…今はまだ辛いけど、思い出は、楽しいものだったから…。」

「なるほどね…で、早く忘れるために、今の彼氏と?」

「あたし今、彼氏なんか居ないよ。早く忘れるつもりもないし。」

「え?」

「隆志のことなら、勘違い。もうひとりの幼なじみなの。」


なぜこんなこと言ったのか、自分でも分からない。

(違うでしょ!それをハッキリさせたくて来たんじゃないでしょ!)

心と身体が別人の様で、
コントロールが効かなくなっている。


「それを言いに、わざわざ来てくれたの?」

「残念でした!今は、誰ともつきあう気にならないってことを伝えに…」

「いいよ。」

「え?」

「まずは、友達からでいい。」

きちんと言えはしたものの、
その反応は予想外だった。

そして、黙って石垣に腰掛ける慶太は、

「でも、ずっと友達のままってのは、ちょっとなぁ。俺、めっちゃくちゃ独占力強いから、苛々しそうだけど、頑張ってみるよ!」

そう言って、こっちに笑顔をなげかけた。

前にも聞いた言葉に、
また恭一と重なって見え、
目をパチクリとさせる私。