ある日の学校の帰り。

「これ、あんたのだろ?」

電車を降りようと立ち上がり、ドアに向かう途中で、
そばに居た人に声をかけられた。

「え?あ、はい!」

奪い取るように傘を受け取った私は、

ドアが開くと同時に飛び降りると、ホームをくまなく見渡した。

(…のワケないか…。)


あの日に戻った気がして、
ホームに恭一の姿を探していたのだ。


私と恭一が、結ばれるきっかけとなった
あの日のことは、

2年経った今でも、鮮明に思い出される。

(今日は私、笑いかけなかったよ。せっかく親切にしてくれた人なのに…きょーちゃんがまた怒るから)

人影がなくなったホームに、
私は、しばらく立ち尽くしていた。


「おい!」

後ろからする声に、ハッとして振り向くと

「大丈夫?」

さっき、傘を渡してくれた男の人が立っていた。

「あ、はい!すみません。」

「…別に、謝られることは…つーか、何やってんの?」

「ああ…めまいがして…」

「大丈夫なの?」

「も、もう、大丈夫です!失礼します。」

私は、恭一に見られてるような気がして、
足早にその場を去った。

改札口を抜けてから、少しゆっくりと歩きだした私は、
若いスーツを着た男性と肩同士がぶつかって、
カバンを振り落とした。