「お、愛され男が来た。」

ズボンの両ポケットに手を入れたまま、
日差しが眩しそうな顔した恭一は、
跳びはねるよにやって来た。


「おーす。」

隆志と挨拶を交わした後、

「よう。」と、

軽く会釈をされた私は、

「うん。」と返して、

前髪を直す様な仕草をしてごまかした。

それを見落とさなかった隆志は言う、

「やっぱ俺、邪魔じゃね?」


「二人だと、俺、狼になっちゃうから。」

こんな、ひょうひょうと返す恭一の言葉を、
どう受け取ったのか、

「そりゃあ、マズイな。」と、

男共は笑った。


先生の言葉と、
友達との出会い。
そして、3年間の思い出。

昨日の、何倍もの涙を流して、

卒業式は、無事に終了した。


最後の教室を後にする時。

「未知。」

呼び止められて、振り向くと、

恭一は、制服の第二ボタンに手をかけながら、

「どうするコレ?」と、

外して見せた。


「…ちょうだい!」

差し出した私の掌には、

恭一の、
今までの想いと、
これからの気持ちが、

そっと、手渡されたのだった。