「お休みなさい」と背中を向けたまま吉崎は言って部屋に入っていった。





俺も部屋に入り、机の椅子に腰掛けて、本棚から一冊の本を取り出す。



本全体は分厚く表面は黄色っぽくて凄くシンプルなものだ。


まぁ数学の本ってのはだいたいシンプルな感じのが多いしな。



ある数学者が何百年もの前の謎を解くまでの一部始終を描いたものだ。



古い本のため、かなりボロボロだが、これを貰った時も結構傷んでいたな。



まいったな。…今日はどうしても寝れない。


自然と目が覚めるんだ。まあ明日は仕事もないし…。


ふと、吉崎の部屋と俺の部屋を遮る壁を見る。



吉崎は、もう寝たんだろうか。



フウッと息をつき、手に持っていた本をパラパラと開いた時、懐かしい感覚が脳裏をよぎる。



高1の時だった。



俺にこの本を渡す安西先生のあの笑顔が鮮明に蘇る。



生まれて初めて貰った誕生日プレゼントだった。






グッと潤んでしまう目が、何とも言えなかった。




安西先生、俺もまだまだですよ。


フフッと笑いながら、本に目を通す。