そして迎えた放課後の面接練習。





私は、困り果てていた。


だって志望理由が言えない…。


面接官役は高木先生と三浦先生…。




私達は教室の外、廊下に追い出され、一人ずつ名前が呼ばれていく。




面接練習開始のよう。






書いて持ってきたそれぞれの質問に対しての回答の紙。




志望理由だけ、空白になっている。



高木先生にも、どうして行きたいんだ?って聞かれたけど言えなかった。



どうしよう。



それに、面接練習って言うだけに、教室内も、廊下で待ってる私や花、他のクラスの生徒、それぞれがそれぞれの面接試験が近いため、緊迫な雰囲気が流れている。




ああ、胃が痛い。





花もブツブツと紙を見て暗い表情をしている。





志望理由、志望理由、…。



せめて、高木先生さえいなければ…




私は、…言えるのに。




高木先生:「吉崎さん。」




教室の中から、良く通る高木先生の低い声が、私の名前を呼ぶ。




どきっと緊張の糸がピンと張られる。



操り人形のようにギクシャク。


大丈夫、これは練習。









だけど、面接官が良く知った顔じゃ余計に緊張するというか、


言いづらいというか…。




ましてや、高木先生…。



はいっと返事をして教室のドアをノックする。



高木先生:「どうぞ。」



一定の高さで教室内から高木先生の声が聞こえる。



ガラガラ、とゆっくりドアを開け一礼。


「失礼します。」


かなり動きは緊張でギクシャクしながら、用意されている椅子に移動する。







真顔の高木先生。


完全に面接官になりきっている。

隣の三浦先生はいつもの表情。


いつも無表情だから、あまり違和感はない。



高木先生は、違和感だらけ。



色んな顔を見てきたけど、いつもにって笑ってくれるから安心してたのに、今は、顔色一つ変えず、質問される。



それに必死に答えていく。



高木先生:「…そうですか。では最後に、本学を志望された理由は何ですか?」




きた…志望理由!




どうしよう、ヤバい、


言葉に詰まる私を、高木先生は真っ直ぐ見つめる。


あの全てを見透かすような目が、私の心の内を見られているようで何とも言えなくなる。









「…、…、…………。」


口をパクパクさせながら真っ白な頭で必死に言葉を探す。



ダメだ…見つからない。





高木先生:「…。」

三浦先生:「…。」



沈黙の空気。


ヤバい早く何か言わなきゃ!


心なしか、三浦先生が微笑んで見える。



「…す、すいません。緊張して…上手く答えられません。」



正直に言うしかなかった。



高木先生:「そうですか。今日の所は、いいでしょう。」


三浦先生:「ええ、では終わりましょう。」


はい、っと慌てて返事をして、席を立ち


「ありがとうございました。」


と言って一礼。







フウッと教室を出ると安堵の息が漏れる。





結局言えなかった。






せめて、面接官が高木先生じゃなかったら、何か言えたかもしれない。








帰ってから、高木先生に色々言われるんだろうな…。



てか絶対変な動きしてたって笑われる…。




受験生ってのは、本当に嫌だな…。














高木先生:「吉崎!面白かったぞ!笑」



家に帰ってくるなりニコニコと笑いながら私の元へやって来る高木先生をキッと、睨みつける。



やっぱりくると思った。



「緊張してたんです!!」



高木先生:「ははは!手と足がギクシャクしててロボットみた…いてッ!」


ボカッと先生のお腹にパンチを入れる。



「緊張してたんですってば!!!」



赤くなって必死に怒る私を、そうやってからかうんだ先生は!



ツーンっと怒ってキッチンのほうに足を運ぶ。



「もう!先生になんかご飯作ってあげない!」


そう言うと慌てて高木先生が困った顔をして謝りにくる。



そんな高木先生が面白くてつい笑っちゃう。



もう許さないって思っても、高木先生だと、許しちゃうんだ。





何だか、私………

高木先生に甘い?


弱いのかな?




悔しい、ていうより、仕方ないかって思っちゃう。




変な私。










ちょっと崩れちゃったオムライスをいつものようにガツガツ食べる高木先生。



私だけ、形を気にしてたみたい。


高木先生:「それより、吉崎…志望理由まだ決まってないんだろ?」



ギクッと"志望理由"という言葉に反応する。



「…まだ、ですね…。」


高木先生から目を反らし、目の行き場に困る。



高木先生:「吉崎がその大学決めた時のその決め手を話せばいいんだよ。」



決め手か…。




高木先生と同じ大学に行きたかったから…なんて、


目の前の本人になんて言えない!言えない!



「……………何とな〜くです…。」


高木先生:「…。じゃあ、とりあえず大学の良いところ探してそれ言うしかないか…。」


うーんと顎を手の平に置き考える高木先生。



先生は、こんなてきとうな私の答えにもまた次の案を一緒に考えてくれる。




普通は…、呆れるでしょ?



志望理由が「何となく」だなんて、ため息ひとつ出るじゃない?





あの先生は、ガッカリしたよ?


姉の方ができが良かったって言ったよ?





高木先生は…広い…広すぎるくらい大きな心を持ってる。









高木先生:「俺が行ってた時は、学食が美味かったなぁ!それから、学園祭もかなり盛り上がった!あの有名なアーティストも来たしなぁ!」


昔を思い出すようにケラケラと笑い出す先生。


それにつられて笑う私。


「へぇ〜!」


高木先生:「サークルとかもかなり色々あるし!俺は4年間授業とバイトばっかだったかな?」


高木先生の若い頃の話が頭に映る。想像だけど。



高木先生:「そういえば、吉崎も理工学部に行くって言ってたな!授業多くて大変だぞ?何でまた理工学部なんかに…。」



「えっと数学、高木先生に教わってから、結構好きになっちゃって!色々もっと深く数学に関わってみたいなぁって思って…。高木先生は何でその大学に?」


高木先生:「…俺は、安西先生を追いかけて教師の道を選んだ。あ、安西先生ってのは高校時代の数学教師でな。吉崎からすりゃ、もうおじいちゃんって所だな!わはは!笑」



無邪気な高木先生の見せる笑顔。


初めて見せた先生の顔にどきっとする。



まるで、その時の自分に戻ったように話し出す高木先生。



私はそんな高木先生の姿を見てるだけで居心地が良かった。











高木先生:「…っと!それより、さっきのを志望理由でいいじゃないか?」


何かを思い出したように高木先生は元の高木先生に戻ってしまった。


「え?」


さっき何か言ったっけ?


ポカンとする私に高木先生がいつもの笑みを浮かべる。



高木先生:「だから!数学を深くしりたいなぁって言ってた所。それを上手く広げて話せよ!」


にっと笑う高木先生がいつもより可愛いく見えてしまう。


きっとさっき無邪気な姿を見ちゃったから。



へへへ!


思わず笑ってしまう私に高木先生がポカッと叩く。


高木先生:「面接試験絶対受かれよ!明日も面接練習だかんな!」


よしっと何か気合いを入れて高木先生は、残りのオムライスを一口で平らげた。


面接試験受けるのは私だよ?先生。





でも、そうやって、自分のことのように考えてくれる高木先生が…私は好きだな…。





え!?


私、今変なこと思った。


ううん思ってない。



ただ、先生のこと嫌いじゃないよってこと!!



って自分で自分に言い訳なんて。



ただ今は認めたくないだけ。



もう少し、気付かないフリをさせて。







…―面接結果通知日






「あ、お父さん?」



学校帰り、私は一人駅までの道を歩きながら携帯電話を手にし、話し出す。



相手はお父さん。



お父さん:「奈緒!久しぶりじゃないか!全然連絡くれないから待ってたんだよ!」


嬉しそうなお父さんの声が、何だか久しぶり。


「お父さんが連絡くれないんじゃん!」



お父さん:「…いやぁ。まぁそれはお父さんとしても複雑な心境なんだよ…。」



訳の分かんないことを話し出すお父さんを無視して、とりあえず報告をする。






「あのね。この間面接試験だったの。それで、今日…通知が来て、通ったよ私!」




お父さん:「え!?もうそんな時期なのか!?父さん知らなかったぞ?どこの大学行くんだ?」



「言うの忘れてた。…あのね。高木先生と同じ大学行く。お姉ちゃんみたいにすっごく有名って所でもないけど、…夢もまだ見付かってないんだけど…。」




お父さん:「そうか…。高木君、担任だったな(笑)"先生"なんて呼ばれているのか(笑)」



はははっと笑うお父さん。高木先生って言葉しか注目してない。私、後半、結構頑張って言ったのに。










って…



「あれ?高木先生のこと、話したっけ?お父さん、知ってたの?私の学校の先生だって。」



お父さん:「あ、いや、それは前に聞いて…。それより、合格おめでとう!あと誕生日も!」



遅い。



前にってお父さんは高木先生といつ話したのかな?




高木先生のこと、色々知ってそうなお父さんの口調に気になることを聞いてみた。




「そういえば、お父さん、前に高木先生と昔ちょっとした知り合いだって言ってたよね?」



お父さん:「あ、ああ。…言っていたが…。」



「夏休みね、別荘行ったんだ。」



お父さん:「…。…聞いてるよ。私が、その場所に勧めたんだ。」



…聞いてるって。…そうだったんだ。



「…高木先生、その場所に来たことあるんだって。…昔…お父さんに助けられたんだって…。」



いつもお喋りなお父さんが、黙り込む。


言葉に詰まっているようにも思えた。




お父さん:「…。……。…高木君が、そう言ったのかい?」



少しの間沈黙が流れた後、お父さんの低く少し枯れた声が聞こえる。



いつもと違うお父さんの雰囲気に、少し言葉に詰まる。