夏だと言うのに、林の中は、しんとした静けさが包み込む。
心臓がドクドクなりはじめ、その自分の心臓の音にさえ恐怖を増幅させる。
「せ、せんせぇ…?」
小さな弱々しい声が、自分の極周りにしか行き届かない。
「たかぎせんせぇ〜。」
帰ろうにも、林というのは不思議なもので右も左も前も後ろも、同じ木が並び後ろから来たはずなのに、グルリと回ってみれば、どっちが後ろなのか、方向がまったく掴めなくなる。
怖い…恐い…
その場で動けずにうずくまる。
あの影が誰か分からなくても、頭に浮かぶのは高木先生で、先生しか出てこない。
「っせんせぇー!」
思いっきり叫んだ。高木先生に届くように、あの影が先生じゃなくても、たとえ今ログハウスに寝てても、高木先生を呼ぶ。
そばに来てお願い、先生!
恐い、怖いよぉ!
ガサッ
高木先生:「吉崎か!?」
ガサッと草の音とともに、聞きたかった声、来てほしかった人。
振り返ると暗くて良く分からないけど先生の姿がそこにあるような気がした。
「先生ッ!」